私はエジプト民族舞踊を専門に踊っていますが、ダブケという民族舞踊も学んでいます。
Team Dabkeh Japan というダブケチームに所属しています(Websiteもご覧ください)。
というのも、ダブケが踊られるレバント地方は、主にシリアやパレスチナ、レバノン、ヨルダンを指しますが、エジプトの一部も含まれます(ナイル川より東側&シナイ半島の地中海に面した地方が含まれます)。国立舞踊団(コウメイヤ)の演目にもダブケがあります。
Team Dabkeh Japanに最近入られたメンバーのご紹介で、(Eさん有難うございます)チームから私を含む4名が、大阪万博のPalestine National Day(2025/6/1)における民族舞踊fashion showのモデルとして参加しました。感じたことを後記として記載いたします。
お話をいただいたのは4月末でした。
当初は「万博でモデル♪すごい~」と少し浮ついたものの、「こんな大変な状況で浮かれてモデルとかやってる場合?」という戸惑いの気持ちもありました。
1948年のナクバ以降、イスラエルがパレスチナの地の多くを占領し、元来パレスチナに住んでいた多くの人々が故郷を失いました。人々は、ガザ地区や周辺国のヨルダンなどへの避難を余儀なくされました。そして一昨年からイスラエルがガザ地区の一般住民を攻撃し、大変悲惨な状況になっています。
今回の民族衣装ファッションショーおよび刺繍帯ショーも大使館(総代表部)で手配は恐らく難しかったと思われ、パレスチナ支援組織である『パレスチナ刺繍帯プロジェクト』(公式FBこちら)が主な準備をされました。
パレスチナ刺繍帯プロジェクトさんの広報・取材記事を拝見する中で、私はパレスチナの民族衣装および刺繍が、文化的アイデンティティのよりどころでもあり、また不屈の精神の象徴であるということを痛感しました。
せっかく衣装を着させていただくなら、衣装を沢山の方の目につくように、内包される強さを観客の皆様にご覧いただける形で着られるようにがんばろう、と思いました。
着用する衣装はパレスチナのシアム駐日大使(敬意と国家承認の願いを込めて大使とお呼びします)のお母さまが長年収集されたものと聞き及びました。100年~80年くらい前の大変貴重な衣装です。プロジェクト側からBeersheba(ベエルシェバ)という地方の衣装着用と指定があったのは、開催数日前でした。
Beershebaについて、聞かれても恥ずかしくないようにネット検索で調べました。Beershebaはパレスチナ南部(ガザ地域の少し東)の町です(現在はイスラエルが占領)。エジプト国境からの距離は約60㎞と非常に近く、住民の大半はベドウィンでした。結婚式の衣装の一部例えば頭のベールなどはエジプト綿が使用され、ナクバ以前はインド~エジプト間の交易陸路の重要な拠点であったことなど、エジプトともご縁のある土地であることを知りました。
女性は通常ブルカを被り、衣装の刺繡には糸杉(平和と不屈を象徴)が多く使われます。四角形や三角形、星のような型(昔パレスチナ人が崇拝した、カナンの星のモチーフとみられる)も刺繍としてあしらわれ、刺繍の糸には赤のほか、オレンジがかった赤(砂漠の象徴)も多く使われました。
エジプト民族舞踊や生活文化を調べている私が着用するのもご縁と思いました。
モデルは未経験でしたが、極力きちんとお見せしたいと思い、Youtubeでモデルの歩き方ノウハウビデオなど見ながら(公開下さった方有難うございます)スタジオで歩く練習をしました。
衣装は当日初めて手にして、重かったです。衣装自体もずっしりとし、額から顔に渡した3連のコイン、耳元から下がる飾り、首、胸にもコインや金属の装飾があり、おそらく衣装全体で5㎏近くあったのではないでしょうか(あくまで私の推測ですが…)。
通常は笑顔で民族舞踊を踊りますがこの衣装には笑顔ではないと判断し、主催側の方に、「この衣装笑顔合わないので、笑顔無で歩きます。」とお話してリハーサルに臨みました。
当日は、午後のリハーサル→午後のイベント出演→夕方のリハーサル→夜のレセプション出演という流れでした。歩く場所を伺い、詳細は以前のイベントの際のビデオを観つつおまかせでしたので、袖にあしらわれた刺繍が見えるようにポーズを取りました。また、正面での静止時間を少し長く(3秒ほど心の中で数え)しました。
貴重な衣装を汚したり重みで姿勢が崩れないようにと必死でしたが、何とか無事にショーを終えることができました。また、私の当日の様子も万博公式インスタグラムダイジェスト、共同通信様、朝日新聞社様(リンク先は有料記事)など多数ご掲載いただきました。
山本さんはじめパレスチナ刺繍帯プロジェクトの皆様、ナショナルデー関係者皆様、パレスチナ大使閣下ならびに令夫人、チームダブケジャパンの皆様、出演者皆様、スタッフ皆様、各マスコミ媒体の皆様、大変お世話になり有難うございます。
パレスチナの状況は依然出口が見えず、政治的打開も非常に困難な状況が続いております。少しでも個々人ができることをして、戦争を止める方向への世論を世界的に喚起する必要があります。戦争は文化も破壊します。文化や歴史を繋ぐには一刻も早い停戦が不可欠です。このファッションショーや私の着用衣装が、パレスチナの伝統文化に対する認知向上・文化を保持する動きへとつながることを心から願っております。

提供:朝日新聞社(2025年6月2日朝刊:社会面掲載)
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